はじめに:なぜ今「タワマンと相続」なのか
「タワーマンションを買うと相続税が安くなるらしい」――不動産や税務に少しでも関心がある方なら、一度は耳にしたことがあるでしょう。
都心の象徴であり、ステータスシンボルでもあるタワーマンションは、実は資産承継の局面で大きな意味を持つ不動産です。
近年では国税庁が規制を強化したことで「タワマン節税」の万能神話は崩れつつありますが、それでも依然として多くの資産家にとって相続戦略の有力な選択肢であり続けています。
なぜタワマンは相続で注目されるのか、またどのようなリスクや留意点があるのかを、不動産のプロの視点から整理してみましょう。
タワーマンションが相続で注目される理由
1. 評価額と実勢価格のギャップ
相続税の計算では、不動産は「時価」ではなく、国税庁が定める評価方法によって算出されます。
土地 → 路線価方式または倍率方式
建物 → 固定資産税評価額
この評価額は、一般的に市場価格(実勢価格)より低く出る傾向があります。特にタワーマンションでは、
敷地を多数の区分所有者で共有するため、敷地権割合が小さくなり土地評価が抑えられる
建物部分も固定資産税評価額が実勢価格より低く算出されやすい
という構造上の特性から、評価額と市場価格の差が大きくなる傾向があります。
そのため「市場では1億円で売れる部屋が、評価額では6,000万円程度」といったケースが生じ、相続税の課税対象額を圧縮できる点が資産家に注目されてきました。
2. 流動性の高さと管理の容易さ
タワーマンションは立地やブランド力が高く、賃貸需要も豊富です。都心の駅近タワマンであれば、売却・賃貸ともに出口戦略を取りやすい資産となります。
また、共用施設や管理体制が整っているため、相続後に物件を扱う相続人にとっても負担が少なく、「残しやすい資産」という点でメリットがあります。
国税庁による規制強化と「タワマン節税」神話の修正
1. 財産評価基本通達の改正(2017年)
「タワマン節税」が広がる中で、国税庁は2017年に財産評価基本通達の改正を実施しました。
ここで注目されたのが「総則6項(時価主義)」です。これは、評価額と実勢価格に著しい乖離がある場合には、税務署が時価に基づいて評価し直すことができるという規定です。
例えば、相続税評価額が4,000万円なのに市場では1億2,000万円で取引されるような極端なケースでは、通達6項を根拠に「時価評価」を適用される可能性があります。
つまり、従来のように「タワマンを買えば必ず節税になる」という考え方は通用しなくなりつつあります。
2. 裁判例や実務での動向
実際に「タワマン節税」を巡っては、相続人と国税当局の間で裁判となった事例もあります。
東京地裁(2014年)では、相続したタワマンの評価について、税務署が「著しい乖離がある」として時価課税を主張したものの、納税者側が勝訴。
しかしその後、国税庁は通達改正により「乖離が大きい場合は課税する」姿勢を明確化しました。
この流れからも、形式的な評価額だけを根拠とした節税はリスクがあることが分かります。
タワマンを相続資産として活用するメリット
1. 資産価値の安定性
都心主要エリア(港区・渋谷区・中央区など)のタワーマンションはブランド性が高く、国内外の富裕層需要が厚いため、中長期的に資産価値が安定しやすい特徴があります。
2. 相続人にとっての利便性
戸建や地方の大規模土地に比べ、タワーマンションは「管理のしやすさ」「処分のしやすさ」で優れています。相続人が不動産に詳しくなくても対応できる点は大きな魅力です。
3. 分割の柔軟性
タワーマンションは1戸単位で相続可能なため、「兄は現金、妹はマンション」といった形で比較的分割しやすいというメリットがあります。
注意すべきリスク
1. 税務リスク
繰り返しになりますが、評価額と実勢価格の乖離が極端な場合には「時価課税」される可能性があります。相続税対策目的での取得は必ず税理士と相談が必要です。
2. 市場リスク
人気の新築タワマンは高額で取引されますが、中古市場で値下がりする例もあります。特に駅距離や共用施設の維持コストが重い物件は注意が必要です。
3. 維持コスト
管理費や修繕積立金は戸建より高額になりがちです。相続人が負担しきれず、結局売却に至るケースも少なくありません。
具体例:タワマン相続での税額シミュレーション
仮に「実勢価格1億円」のタワーマンションを相続するケースを想定します。
固定資産税評価額:6,000万円
路線価による土地評価:1,000万円
→ 相続税評価額合計:7,000万円
この場合、現金1億円を相続した場合と比較すると、課税対象額は3,000万円圧縮されます。相続税率が30%と仮定すると、900万円の節税効果が生じる計算になります。
ただし、評価額と実勢価格の差が大きすぎる場合には、前述の通り「時価課税」が適用される可能性があります。
まとめ:相続資産としてのタワマンの位置づけ
タワーマンションは「評価額が低く出やすい」という特性から、相続税対策の一環として長らく注目されてきました。しかし、国税庁による規制強化により、「節税目的だけでの取得」はリスクが高まっています。
一方で、
資産価値の安定性
売却・賃貸のしやすさ
相続人にとっての管理の容易さ
といった点は今も大きな魅力です。
相続資産としてタワマンを検討する際には、税理士・不動産会社の両方に相談し、税務リスクと資産価値の両面から戦略を練ることが欠かせません。
単なる節税手段ではなく、「残す資産の質」を高める一手として、タワーマンションをどう活かすかを考えることが求められます。



