はじめに ― 相続登記が「義務」になる時代へ
「親からマンションを相続したけれど、登記はまだ済ませていない」
「実家が祖父母の名義のままで放置されている」
こうした話は珍しくありません。従来、相続登記は任意だったため、相続人が登記をしないまま何十年も放置され、登記簿上の名義人が既に亡くなっている「所有者不明土地・建物」問題が全国で深刻化していました。
この問題を解決するため、2024年4月1日から民法・不動産登記法の改正が施行され、相続登記が義務化されました。対象はすべての不動産で、もちろん区分所有マンションも含まれます。
1. 相続登記義務化の内容
1-1. 義務の中身
「相続があったことを知った日から3年以内」に相続登記を申請する義務がある。
違反すると、10万円以下の過料(行政罰)に処される可能性がある。
過去に発生した相続でも、まだ登記していなければ義務化の対象となり、3年以内の対応が必要。
1-2. 「知った日」とは?
一般的には、被相続人(亡くなった方)の死亡を知った日。
ただし、相続人の存在が後で判明した場合は、その「判明した日」から3年がカウントされる。
したがって法律上は「知った日から」ですが、実務上は死亡日から3年以内と同じ感覚で考えておくのが安全です。
2. マンション相続で特に注意すべき理由
マンションは一戸建てや土地と比べて、相続登記が放置されることで大きな問題が生じやすい資産です。
2-1. 区分所有という特性
マンションは専有部分と共有部分から構成されます。登記が放置されると、管理組合が誰に請求すべきか分からなくなり、修繕積立金や管理費の徴収に支障が出ます。
2-2. 建替え・修繕の合意形成
大規模修繕や建替えには区分所有者の多数決が必要です。相続登記がされていない部屋があると「所有者不明」となり、同意を集められず計画が進められないケースが現実に発生しています。
2-3. 売却・賃貸の制約
登記簿上の所有者が亡くなったままでは、売買契約も賃貸契約も締結できません。金融機関の融資も下りないため、市場で流通させることが不可能になります。
3. ケース別に考える相続登記
ケース①:親から区分マンションを相続した
死亡を知った日から3年以内に登記申請が必要。
遺産分割協議に時間がかかる場合でも、期限が迫れば「とりあえず相続人全員の共有名義」で登記して義務を果たすのが安心です。
ケース②:兄弟姉妹など複数人で相続した
遺産分割協議がまとまらない場合でも、まずは法定相続分で共有名義にして登記。
その後に分割が決まれば、改めて持分移転登記をすれば良い。
ケース③:相続放棄をしたい場合
家裁で相続放棄の手続きを取れば、その人は最初から相続人でなかったことになるため登記義務は生じません。
ただの放置では放棄にならない点に注意が必要です。
ケース④:過去の相続で名義が古いまま
すでに相続が発生している場合も、施行日から3年以内に登記が必要。
長年放置された名義を整理するには、多くの戸籍を集める必要があり、手間もコストも増えるため、早めに動いた方が賢明です。
4. 義務化によるメリット
相続登記が義務化されることで、次のようなメリットが期待できます。
権利関係の明確化
売却や賃貸の際に取引がスムーズになる。管理業務の安定化
管理組合が確実に請求・連絡できるため、修繕積立金の滞納リスクを減らせる。将来のトラブル防止
早めに登記を済ませておけば、相続人同士の争いを防ぎやすい。
5. 相続登記の実務フロー
相続人の確定
戸籍を取り寄せ、誰が相続人かを確定。遺産分割協議
誰がマンションを所有するかを話し合い、協議書を作成。必要書類の準備
登記事項証明書、固定資産評価証明書、戸籍一式、遺産分割協議書など。法務局へ登記申請
司法書士に依頼するケースが多いが、自分で申請することも可能。
6. 専門家に相談する重要性
相続登記は書類の準備が煩雑で、期限を過ぎると過料のリスクがあります。
また、相続税の申告や遺産分割に関する争いがある場合には、司法書士だけでなく税理士や弁護士のサポートが欠かせません。
「登記」だけでなく、「税」「相続全体の整理」をワンセットで考えるのが安心です。
まとめ ― マンション所有者は特に注意!
相続登記は「相続があったことを知った日から3年以内」に申請義務
正当な理由なく怠れば、10万円以下の過料の可能性あり
マンションは管理組合との関係や売却の流通性から、登記を放置すると大きな支障が出る
遺産分割がまとまらなくても、まずは「共有名義」で登記すれば義務は果たせる
すでに放置されている過去の案件も対象となるため、今から確認と準備が必要
相続登記義務化は「国からの負担増」ではなく、「将来の大きなトラブルを防ぐための制度改革」と捉えるべきです。
自分や家族が所有するマンションの登記状況を見直し、必要であれば早めに専門家に相談しておくことが、資産を守る第一歩になります。



